春麗ら、山形盆地に、青き風。JR左沢線をスケッチする。

 「左沢」

 この地名を正しく読める人間は、地元住民の方々を除けば、そう多くはないでしょう。

 「あてらざわ」

 山形県を代表する一級河川・最上川が、緑豊かな山間から田畑の広がる盆地へと進路を取る間際、U字に蛇行するほとりに広がる小さな町、左沢。そして、この町の玄関口「左沢駅」から書類上の起点駅「北山形駅」を経て、県都の代表駅「山形駅」を結ぶ全長24.3㎞のローカル線、それが「JR左沢線」です。


 4月半ばのある木曜日。仕事を終えて爆速で帰宅すると、着替えを仕込んだボストンバッグを手に東京駅へ。下り最終となるつばさ159号に乗り込みます。座席にもたれると、仕事疲れがドッと出たか、眼前のトランヴェール4月号を読む余裕すらなく意識を失ってしまいました。せっかくの福島デスティネーションキャンペーン特集号だったのですが…。その間にも、つばさ号は関東平野をひた走り、福島盆地で進路を西にとり、身をくねらせるように板谷峠を踏破。気付いた時には山形に着いていました。


 なぜわざわざ有給休暇を取ったのか、そして木曜夜に前乗りするという強引な行程を組んだのか。それはひとえに、左沢線名物である平日朝の6両編成を撮影するため。現代の非電化ローカル線では非常に珍しい長大編成を組成しております。その理由としては、「①沿線に複数の高校があり通学需要が旺盛なこと」、「②本路線で使用されているキハ101形の車両長が17mと短く、一般的な20m級の車輌と比べてより多くの編成両数を要すること」などが挙げられます。とはいえ、兄弟車のキハ100系(16.5m)から50㎝延長している上に、キハ100系とは異なりオールロングシートですから、当路線の通学需要は別格と言えます。

 鉄道が斜陽産業と呼ばれて久しい現在、「大量輸送」という鉄道最大の特性を遺憾なく発揮している現場があるということは、いち趣味者にとって喜ばしく感じます。

 山形駅前でタイムズカーを借りると、さっそく左沢方面へ。折り返し山形行きの送り込みとなる、寒河江発左沢行きの小運転列車の撮影から、この日の朝を始めたいと思います。左沢のシンボル的存在である、最上橋を臨むポイントで。橋のたもとには、ちょうど桜が咲き誇っていました。

 場所を変えて長崎の陸橋へ。先ほど撮影した編成と離合した、左沢行きの6両(うち4両は寒河江止まりですが)を待ち構えます。こちらのポイントも桜が見ごろでした。東京ではとうの昔に散った桜が、山形の地でようやく満開を迎える。桜前線の北上をこうして実感できるのは、全国で歳時記を収めようと東奔西走、南船北馬も辞さない写真家のご褒美と言えるかもしれません。

 印象的な枯草にピンを合わせて。山の稜線がくっきり出ていたので、背景はそのディティールに頼りました。

 二本目の下り6連は田園地帯で。春の始まりというよりは、冬の終わりといった様相ですね。

 先ほどの陸橋ポイントを下の道から。地元祭の開催を予告するポスターが印象的でした。紅白でめでたい。

 小さな標識、大きな桜のアーチと。


 この日は午後から雨が降るということで、早くも心は撤収モード。せっかくなので、過去の訪問では果たせなかった観光をしてみることに。

 訪れたのは、霞城公園内に位置する「山形市郷土館」。元を辿ると、1878(明治11)年に山形県令・三島通庸の命で建設された病院「済生館」で、和洋折衷の意匠が特徴的な木造建築です。

 建物の内部はこんな感じの回廊になっています。その中心部には日本庭園があり、とても素敵。

 また、山形市の地理・歴史・医学に関する展示物や解説も豊富で、たいへん見応えがありました。特に、「山形市は東から北西方向へと流れる馬見ヶ崎川が形成した扇状地上に位置し、中心街の西側に位置する山形城は、中心街より標高が低いという全国的に珍しい城だった」という解説は興味深かったです。確かに、城と言えば、小高い場所に構えるイメージですもんね。

 霞城公園のお堀を渡る橋より、最上家の家紋が艶々と描かれた欄干と絡めて。


 続いて、仙山線に乗って山寺へ向かいます!

 山寺駅です。ここから目的地の山寺(立石寺)を目指します。

 その前に腹ごしらえ。駅前の定食屋「えんどう」さんで、芋煮定食(¥1,200)を頂きます。雨降りの肌寒い日に、芋煮の温かさがよく染みました…。

 続いて、小高い場所にある「山寺芭蕉記念館」へ。その道中からは、仙山線を良い感じに見下ろせるポイントもありました。

 肝心の記念館は、芭蕉やその門弟の作品が本物レプリカ含め目白押しという凄い施設でした。が、いかんせん俳壇に疎い私は、なかなか展示内容が頭に入って来ませんでした…。むしろ、それらの句を彩る掛け軸の多様性に惹かれました。いずれにせよ訪問する価値はあると思いますので、山寺を訪れた際はぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょう。

 さて、腹を満たし、芭蕉記念館で予習も済ませ、いよいよ立石寺を参拝

出来ませんでした…。

 意気揚々と潜ろうとした山門には、「本日は終了致しました。」と無情な立て看板が通せんぼ。完全に知らなかったのですが、立石寺の入山受付時間は8時~16時で、現在時刻は16時5分。あーあ、何してるんだか…。

閑さや 岩にしみ入る ワイの声。


 凹んでいても仕方ないので、仙山線撮影に予定を変更。来た道を引き返し、高瀬駅で途中下車します。

 高瀬と言えば、高畑勲監督作品「おもひでぽろぽろ」の舞台となった駅でもあります。というか、その知識だけを取っ掛かりに降り立ちました。しかしこれが吉と出まして、駅近くの川に見事な桜並木が。とりわけ印象的な枝ぶりの木と絡めて一枚。

 霞たなびく山里の春。

 ブルーモーメントの中で煌々と輝く高瀬駅のホーム。

 映画に登場した木造駅舎は、その後改築されてしまいましたが、雰囲気は今でも残っています。

 山形駅に戻ってきました。学校帰りの学生を乗せて賑やかな左沢行き。


 土曜日は一日のんびりモード。(本来は予定になかった)立石寺参拝のリベンジをしたり、女川・石巻観光を楽しみました。今回は割愛。

 そして日曜日。ここまで天候不順が続いていましたが、ようやく晴れそうということで、気合が入ります。

 一昨日訪れた陸橋ポイント。朝の優しい斜光に輪郭を浮かび上がらせる桜並木。

 挑戦的なアングルで写しても映えるのは、花弁の色と車体の色、それぞれの個性のたまもの。

 最上川に沿って。「五月雨を 集めて早し 最上川」ではありませんが、ここ数日の雨を受けて流れが速くなっていました。

 左沢線のハイライト区間ともいえる最上川橋梁を渡るキハ101。午前中ずっと雲隠れをしていた月山も、昼頃になってようやくその姿を覗かせてくれました。

 一方、こちらは葉山。かつて月山と同じく山岳信仰で知られ、現代では市民にも親しまれている山です。とはいえ標高は1,000mを優に超える高山で、山頂には残雪も見られます。

 爽やかな青き風。

 倉庫代わりの廃車体と絡めて。

 一昨日のロケハン中に目をつけていたスモモ畑と。そういえばスモモって食べたことないな。7月ごろが旬らしいので、気が向いたら買ってみようかな。

 くっきり姿を現す葉山に誘われるように線路際へ。眼前に広がる田んぼに色が戻れば、この景色も再び表情を変えるのでしょうね。

 あえてスモモの木をメインに撮影。青空を背景に、可憐な白い花が際立ちます。白のジムニーは助演男優賞。

 澄み渡る空と、青いキハ。今回の旅行で特にお気に入りの一枚です。この場所は季節ごとに訪れたいですね。

 田園地帯の中にぽつねんと佇む羽前金沢駅から山形市方面を眺めますと、明らかに市街地の標高が高いことが分かります。(地理院地図によると、約40mの差があるようです。)扇状地上に位置する市街地と、低平な田園地帯のコントラストが、景観に表れています。それにしても本当に良い天気です。


 最後に、左沢線随一の俯瞰スポットへ向かいます。

 桜が笑うようにあちらこちらで咲き誇る左沢の町。飯豊連峰の白く鋭い山容もくっきり出ていました。素晴らしい…。

 発車。築堤にはかろうじて陽が当たり、4両編成が浮かび上がります。

 急いで広角レンズに交換し、最上川の流れと。河川、道路、そして鉄路が三位一体となって曲線を描く、かつての交通の要衝・左沢を象徴する景観だと、私は思っています。

 あまりの絶景に延長戦を敢行。次のダイヤは18時発ということで、この時期なら日没後の淡い夕空と撮影できるのでは、と期待。結果は、御覧の通り。

 たった一時間の違いで、空の色がブルーモーメントに移り変わり、車内灯が煌めきだす。一日通して同じ路線を撮影していると、ついつい色々な場所を周りたくなるものですが、こうして腰を据えて撮影することも大事ですね。


 2023年7月、2026年2月に続いての訪問となった今回。東北の春は美しいと聞き及んでいたので、実際に目の当たりにできて感動しました。

 個人的な話になりますが、一つの路線で歳時記を撮影しようと思うと、どうにも義務感に駆られて楽しくなくなってしまうので、「四季を追う」ことをあまり意識しないようにしています。その点、左沢線は本数もそれなりに多く、やってくる車両も全て共通仕様。気負わずに撮影できるからか、次は冬の季節を撮りたい、次は春を、次は…と、自然にモチベーションが湧く路線で、とても助かります。

 JR東が誇る新生気動車たる左沢線のキハ101も、既に製造から約30年が経過。兄弟車キハ100・キハ110の置き換えが進む中で、その処遇は安泰ではないはず。一期一会の精神で、左沢線の今を撮り貯めていきたいですね。(おしまい)

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