霊峰と煙突に誘われて、岳南電車をスケッチする③

前回の続きです。

岳南富士岡駅へ戻ってきました。

機関車ひろばは子供たちの絶好の遊び場。大きく跨いでデッキからデッキへ。ある意味ダブル富士か。

岳南富士岡駅から少し移動します。かんぴょうの天日干しと富士山。今度はトリプル富士ですな。

雲が抜け、山容が露わになった富士山と共に。岳南電車の沿線は綺麗に開けている場所が少ないのですが、何とか見つけられました。

難読駅名の須津駅。「すど」と読みます。駅舎こそありませんが、それ以外のトイレ・自販機・駐輪場・案内看板といった必要な設備は揃っている模様。

だんだん見慣れてきたキノコ型の屋根。よく見ると、竪樋の処理が左右で異なりますね。一直線に伸びる左側と、カクカク曲がった右側。こうした方が接続しやすいのでしょうか。

次の目的地まで乗車。富士山を望む車窓も、これまた見慣れてきました。贅沢な話ですが。

岳南原田駅。他の駅と比べると、やや大きい駅舎です。駅構内には“早い、安い、うまい”の三拍子揃った「めん太郎」というそば・うどん屋が併設されているのですが、残念ながら訪問した日は定休でした。

岳南電車の運賃表です。方角でいうと上が南になります。Googleマップを見ていただけたら分かるのですが、実際の線形を絶妙にデフォルメした路線図となっております。

コロナウイルス流行が理由で終日無人化ということですが、それから丸6年経っても再有人化には至っておりませんので、まあ、そういうことなのでしょう。下の看板を読み進めてみると、なんだか凄いところにエクスクラメーションマークが挿入されています。

比奈駅方面を望む。奥に広がるのは、国内の製紙業で王子製紙に次ぐ二番手のシェアを誇る、日本製紙の富士工場。何本も伸びる煙突が、規模感を如実に伝えてくれます。

キノコ型の屋根が鎮座。あれ、こちらの竪樋は左右対称ですね。

岳南原田駅から比奈駅まで歩いてみましょう。だいぶ日が傾いてきました。線路は工場施設に囲まれ、一足先に宵闇へと沈んでいきます。

パイプが道路上を行ったり来たり。

生活道路の先には、見事な紅富士が。千葉県から遥かに望む富士山とは全く印象の異なる、霊峰・富士の威厳がそこにあります。

富士山に負けじと、水蒸気を高らかに噴き上げる煙突。

富士市が誇る、二つの顔。


比奈駅に到着。かつて貨物列車の入換作業で賑わった拠点駅も、今では無人化され、ローカル駅のひとつに。
駅の入り口とは別に「501」と書かれた扉が、こちらは「フジドリームスタジオ501」という鉄道模型店 兼 工房だそうで、富士市の紙を使用したペーパーキットなどを作製されているとか。転車台、高架橋、跨線橋など、痒いところに手が届く製品を作られているようなので、模型鉄の方はチェックしてみては。模型コンベンションにも出展されている程なので、もしかしたらその界隈では有名なのかもしれませんが。
【HPリンク】http://www.mu-projects.net/index.html

駅舎へ近づくと、左側から何やらのしのしと黒い塊が。この駅の主でしょうか?黒猫らしい、ずいぶんと人懐っこい子でした。駅舎を撮ろうとする度にフレームインしてくるのだけは、難儀しましたが。

シンプルなラッチ、横たわる主。

駅前には、某製紙工場の社員寮がありました。一階には宴会が日本料理店や中華料理店など、宴会場の機能も兼ねていそうな飲食店が軒を連ねています。ただ、日曜日だからなのか全てシャッターが下りており、物寂しい雰囲気。一台のタクシーが灯す明かりだけが、人の気配を感じさせます。

構内を線路が輻輳していた時代も、今は昔…。

岳南江尾駅で甘酒を提供してくれたご婦人は、岳南電車についてこう語ってくださいました。「貨物が無くなってからこの鉄道は厳しいんだ」と。「通勤に使おうにも車社会だし、沿線に学校もないし、利用する人が限られているんだ」とも。
そんなご婦人は、岳南江尾駅が無人化されたあと、倉庫となっていた駅務室を改修し、米麹を扱う店舗をオープンされた方でもあります。先述の模型店も、貨物廃止による比奈駅の無人化を受けて、駅務室の居抜きとして、別の場所から移転されたのだとか。
地方のローカル線では、無人化を経て、無残にも荒れ果ててしまった駅が少なくありません。だからこそ、このような形で「人のいる駅」を守るというのは、とても尊い営みなのではないでしょうか。

製紙輸送が華やかなりし時代を知っているマニアにとって、機関車やワムのいない今の岳南電車は、物足りないかもしれません。しかし。こうして宵闇に浮かぶキノコ型のシルエットに明かりが灯る限り、岳南電車の魂は消えやしないのだと、私は思うのです。

煙突の、富士山の遥か上空、浮かぶ満月。

どっぷり日も暮れたころ、吉原行きの列車がやってきました。

帰りましょうか。

薄暗い街並みを抜けた先の吉原駅の光は、とても暖かく感じました。

9.2㎞のミニ私鉄、岳南電車。沿線の観光地も乏しく、実直な地元路線という趣でした。だからこそ、この路線を通して富士という町の自然・産業・文化の一端に触れられたような気がします。
そんな岳南電車の今後ですが、近々、現行の18m車よりも長い、20m級の新型車両が導入されるとのこと。もちろん喜ばしい話ではあるのですが、同時に寂しさもあります。引退前にもう一度、可愛らしい橙色の単行列車に揺られて、富士山を眺めてみたいですね。
(おしまい)