ジャンボ七夕に願いを込めて、高岡七夕まつりと万葉線をスケッチする。
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「万葉線」—シンプル極まる名称を持つその鉄道は、富山県西部に位置する第二の都市・高岡と、同第三の都市・射水を結ぶ、全長12.9㎞の小規模な路面電車を運行しています。年間輸送人員は109万人(R6)で、これは全国の路面電車の中で最も少ない数値。鉄道趣味の観点からみても、その立地に加えて、運用されている車両の同型が近隣の富山市でも運用されている、広告車が多い、とにかく地味、etc…といった理由から、注目されることは少なく、知る人ぞ知る存在でした。
そんな万葉線、肌感覚ではありますが、近年じわじわと注目を浴びつつあるように感じます。SNSの普及に伴う趣味対象の拡散によって、路面電車自体の人気が高まりつつある中、万葉線が「発見」されたことが大きいのでしょう。また、その土台として、北陸新幹線の金沢延伸に伴う首都圏からのアクセス性向上が一役買っているのかもしれません。
更に付け加えるならば、高岡・射水を含む富山県の西部エリア(いわゆる呉西地域)全体が注目を集めているのではないでしょうか。寒ブリや雨晴海岸など多数の観光資源を有する「氷見」や、善徳寺の寺内町として栄えた越中の小京都「城端」などの観光地は人気ですし、有名な合掌造り集落へ向かうバスも出ています。冬の時期にもなると、雨晴海岸から望む立山連峰の写真をSNSで見ない日はありません。
新幹線の開通、交流ツールの普及、インバウンドの需要の高まり。そのような時代の趨勢に合わせて、一大観光地として脱皮しつつあるのが、高岡の現状と言えるでしょう。

そんな高岡市における夏の風物詩となっているのが、「高岡七夕まつり」。旧暦の七夕に合わせるため、毎年8月1日から7日にかけて開催されています。一番の目玉は、路面電車通りに何本も並ぶ巨大な七夕飾りです。その高さ、約10m。七夕まつり自体は全国津々浦々で行われているかと思いますが、七夕飾りの脇を路面電車が通る光景を見られるのは、日本でもここだけなのではないかと思います。
仙台の七夕まつり等と比べると、地元志向が強い高岡の七夕まつりですが、一部の路面電車マニアには存在を知られておりました。自身もその独特な光景を拝んでみたいと思い、一昨年の夏、高岡の地を訪れました。
訪問したのは2024年8月6日・7日の二日間。今回は構成上、二日分の写真を織り交ぜながら紹介していきたいと思います。

高岡駅の連絡通路は、既に七夕飾りで彩られていました。

ジャンボ七夕に彩られた末広通りをゆく万葉線の車両と、猛る入道雲。

ドラえもんトラムがやってきました。ドラえもんの生みの親、藤子・F・不二雄先生は高岡市出身で、「ドラえもん」の生誕100年前(2012年9月3日)を記念して運行を開始しました。生誕〇〇周年ならよく聞きますけど、生誕“前”を祝うというのは、なかなか珍しいですよね。
高岡市には他にも、高岡市美術館の2階に「藤子・F・不二雄ふるさとギャラリー」なんてのもあったりして、ドラえもんを推す取り組みが沢山なされています。藤子・F・不二雄先生関連の施設としては、川崎市にも「藤子・F・不二雄ミュージアム」がありますが、後者が氏の作品に焦点を当てているのに対し、前者は氏の生い立ちに焦点を当てた施設ということで、両方とも訪れる価値があるかと。

ジャンボ七夕、地上から見上げるとなかなかの迫力です。

現在も多くの方が避難生活を余儀なくされ、影響が続く能登半島地震。高岡・氷見など、能登半島の付け根に相当する富山県西部では震度5強を観測。重傷者2人、半壊家屋151棟など、少なからぬ被害を受けました。
七夕祭りというハレの舞台で示された「がんばろう」の五文字の裏には、五文字では表しきれない程多くの高岡市民の思いが込められています。

さりげない日常が、いつまでもさりげないものでありますように。そんな思いも込めて。


さて、末広町を過ぎると様相が変わり、雁木のような低屋根のアーケードが続きます。末広坂という坂になっており、結構な勾配を駆け下りていきます。

末広坂を下りきった場所にある、北陸銀行高岡支店前のモニュメント。お祭り期間ゆえか、浴衣を着せられているのがなんとも微笑ましい。

最終日(8/7)になると、一足早く片付けが始まっていました。少し寂しい風景。

ひとつひとつ手作業で外していきます。「昔は近くの川に七夕飾りを流してたから楽だったんよ」とは、地元住民の談。

その方に瓶ラムネを頂いたので、スナップを一枚。ちょうど水色の7073号がやってくる理想的な展開。撮影の合間に飲むラムネ、美味しかったな。
ここで一旦路面電車から離れて、町中の風景をご紹介。

高岡市中心部にある御旅屋(おたや)通りにも、綺麗な七夕飾りが。
ちなみに、「御旅屋」とは近世において藩主の参勤交代や鷹狩りの際に用いられた休憩・宿泊施設のこと。立派なアーケードですが、人通りはというと…。旧市街の空洞化は、地方都市に共通の悩みです。

七夕飾りに誘われるようにやってきたのは、高岡市の名物である「高岡大仏」。古来より銅器の生産が盛んだった高岡で、その技術を結集して作られたのは1933年のことでした。台座は回廊になっていて、仏画や鐘など、大仏と仏教にまつわる様々な展示がなされています。

高岡大仏から真っすぐ伸びる道路。ジャンボ七夕の壮大さとはまた違った趣ですが、こうした等身大の雰囲気も良いですね。

山町筋の「土蔵造りの町並み」。17世紀初頭の前田家による開町以来、商工業の町として発展した高岡の歴史を物語る地域で、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)にも指定されています。

そんな山町筋の一角に構えるのが「Orii gallery 八ノ蔵」。高岡銅器の着色を手掛ける会社のギャラリー施設です。


深みのある独特の発色が特徴的。こんな色合いの食器が一つあるだけで、食事も楽しくなるだろうな。
【モメンタムファクトリー・Orii】https://www.mf-orii.co.jp

ギャラリー内の中庭のような場所でゆらめく七夕飾り。この空間にずっと居たい…。

閑話休題。折角なので、少し乗車してみることにします。夏の高い日差しは七夕飾りを輝かせ、車内に濃い影をつくる。夏光線というのは画づくりにおいて扱いづらいものだけれど、それだけに面白い画が撮れた時の喜びもひとしお。

列車に揺られて30分弱、高岡市と射水市の市境付近までやってきました。この辺りまで来ると、ルーラルトロリーの雰囲気がぷんぷん漂います。

赤茶色に染まる路面。道路中央に埋め込まれた融雪用のスプリンクラーから噴出される水に塩分が含まれていることから、このような色になるとか。雪国では珍しくない光景なのですが、私(元大阪府民)のような雪とは無縁の地域で育った人間からすると、びっくりしてしまいます。

ジャンボな七夕もあれば、ささやかな七夕もあって。願いが叶うといいな。

撮影時、震災から半年以上が経過していましたが、被害の一端を実感する場面がありました。万葉線の走る吉久地区は埋立地由来の土地のため、液状化現象が発生したようです。

六渡寺(ろくどうじ)までやってきました。背後にはJFEミネラルの工場が迫ります。国内の路面電車の多くは都心部での運行を主としているため、工場地帯の無機質な雰囲気を味わえる路線はとても限られています。こうした希少性も、万葉線が路面電車ファンの中で秘かな人気を集めている理由だったりします。
ちなみにこの工場、使用済みの触媒からクロムやモリブデンといった希少金属を回収し合金鉄を製造しているそうで、新幹線の車体に採用されているのだとか。新幹線と路面電車、対極ともいえる存在が邂逅する場所でもあるのでした。おもしろい。


散村集落で有名な砺波平野を潤す、呉西地域の命ともいえる存在の庄川。その河口付近で、万葉線と交わります。この川を渡ると、新湊地区の中心部に入っていきます。(射水市は、平成の大合併によって5市町村が集まって誕生しました。その結果として、南北に細長い市域になりました。冒頭で万葉線のことを「高岡と射水を結ぶ」と書きましたが、旧・新湊市域と言った方が通りがいいです。)

再び高岡駅前に戻ると、ジャンボ七夕に灯りがついていました。雰囲気もより一層華やかに。

美味しい縁日。

夜が更けてきました。

昼に続いてジャンボ七夕を見上げてみると、それはそれは見事な煌めきが…。

車内からは見えないけれど、確かにある温もり。




楽しかった夜も、徐々に終わりを迎えます。

撤収モードの出店。一方の万葉線も30分に1本の夜間帯ダイヤとなり、店仕舞いに近付きつつあります。

21時を回ったタイミングで灯りが落とされ、七日間の祭典は幕を閉じたのでした。
観光で高岡を訪れたことがある方なら首肯して頂けるかと思うのですが、普段の旧市街は本当に夜が早く、末広通り一帯ですら20時には人っ子一人いない、開いているのは僅かな居酒屋のみ、という有様で、学生時代の自分はよく晩飯難民になったものです。(学習せえ。)また、それに輪をかけて若者の姿を見なかったのが印象的で、これが地方都市のリアルなのかと愕然とした記憶がありました。
それだけに、今回の七夕祭りでは学生を中心とした活気あふれる高岡旧市街の姿に立ち会い、また違った側面を見ることができ、本当に良かったなと思います。近年は旧市街の衰退に歩みを合わせるかのように、ジャンボ七夕の数や規模が落ちてきているとのことですが、こんなに美しく素敵なお祭りが、末永く続くことを祈ります。
一週間の会期中、土日夜間は交通規制が敷かれ歩行者天国となり、万葉線は片原町止まりとなるため、路面電車と絡めた撮影ができるのは平日のみ。社会人にとってはなかなかハードルが高いです。折角なので、次はホコ天の賑わいを見に、高岡の街を訪れてみましょうかね。(おしまい)