雪原を駆ける陸蒸気、SLばんえつ物語号をスケッチする②

前回の続きです。
【12/7(日)】
朝7時半、宿を出発。前日とは違いぐっすり眠れたので、痺れるような寒さが清涼で心地よく感じます。ばんえつ物語号の出発時刻までまだまだ余裕があるので、五泉の街を訪れることにしました。

阿賀野川と早出川の豊かな水資源を活かし、戦前は絹織物、戦後はニットの生産で栄えた五泉市。雁木付きの店舗が並ぶ目抜き通りに、華やかなりし産業都市時代の面影があります。

休日の朝の商店街は大変静かなもので、わずかに店舗のシャッターを開ける音が響くのみ。雲間からたまに覗く陽光だけが、景色に抑揚をつけています。見知らぬ街が目覚める瞬間というのは、何とも言えない味わいがあります。

続いて訪れたのは「村松駅」。1999年に廃止となった蒲原鉄道の終着駅でした。現在は同鉄道のバスターミナルとして活用されています。



橙とこげ茶のツートンカラーをまとった小型・吊り掛けの単行列車が往復する、そんな古き良きローカル鉄道だったそうです。撮影してみたかったな…。
(現役時代の蒲原鉄道線の写真は、以下のサイトに掲載されています。当時の情景を楽しんで頂けるかと思います。)
【津島軽便堂写真館 様】 https://tsushima-keibendo.a.la9.jp/kanbara/kanbara1.html
寄り道も済んだところで、SL撮影に向かいましょう。東に進路をとり、適当に車を転がします。昨日とは打って変わって、雨が降ったり止んだりの変な天気ですが、光線を気にしなくていいのは気楽です。

冠雪した山々と紅葉。季節のうつろい。

SL列車も狙ったのですが、は、晴れちまった…。

気を取り直して、トンネルポイントへ。綺麗な白煙を吐きながら飛び出してきました。
続いて、昨日の往路撮影ではスルーした津川駅へ。水と石炭を補給するため、20分ほど停車します。

乗客が記念写真撮影に興じる傍らを、GV-E400系の普通列車が通過します。C57形180号機との車齢差は、ざっと70余年。人でいうところの祖母と孫のようなものでしょうか。

水や石炭の補給と同様に、係員による入念な点検も重要。

津川駅の先で待ち構えます。11時28分、定刻通り発車。煙を高らかに上げ、一歩一歩踏み締めるように加速していきます。煙の色は煙突口付近が黒色、中ほどが鼠色、上部は白色という見事なグラデーション。先ほどのトンネル飛び出しとは、また異なった表情を見せます。

白煙を棚引かせて、邁進する貴婦人。

昨日、目をつけていた柿の木と。会津地方では、「みしらず柿」というブランドが有名なんだとか。10月下旬から11月下旬が収穫時期だそう。この木の果実は、仲間よりちょっとだけ長生きしているということか。
ここでは背景に沈んでしまうSLではなく、朱色のDEが本命です。影の主役とも言える存在感を放って通過していきました。
昨日は喜多方に到着した時点でダウンしてしまいましたが、今日は体力的に余裕があるので、会津若松ま追走します。撮影は、しませんでしたが。というか、追いつくことすら出来ませんでした…。峠越え区間から平坦な盆地に入り、一気に足が速くなるみたいです。観光客でにぎわう会津若松駅前を冷やかしつつ、新潟方面へ引き返します。
復路一発目は、どこかの媒体で見かけた俯瞰ポイントをぶっつけ本番で探します。地図上でアタリをつけたポイントで山肌に沿ってうろうろしていると、それらしき獣道を上がっていく同業者を発見。俯瞰撮影においても「先達はあらまほしき事なり」ということで、藁にも縋る思いでついていきます。場所が場所なだけに、過酷な人力ラッセルも覚悟していたのですが、ものの数分で、眼下に会津盆地を望む場所に到着。案外近かった。
ひとまずカメラをセット。急斜面に沿って、上に下にと猛者らしき方々がめいめい配置についており、ピリピリした雰囲気に思わず吞まれてしまいます。
16時、喜多方駅から汽笛一声。続いて、かすかなドラフト音。「ぼっぼっぼっ…」というリズミカルな旋律はじりじりと、しかし着実に近づいてくる。上下に散ったカメラマンも一体となり、固唾を呑んで眼下を見つめます。期待、焦燥、期待、焦燥、焦燥、焦燥…そして。


彼女はゆっくり現れました。貴婦人という愛称には似つかわしくない、街を背に峠を越えていく勇壮な姿。このとき、興奮とともに、蒸気機関車撮影の真髄、その一端に触れたのだという感慨を覚えました。

感慨にふけている暇はありません。滑落に気をつけつつ大急ぎで下山して、上野尻のオーバークロスへ。薄暮の村落をゆくSL列車の趣たるや。
実はこの日、日出谷駅で毎年恒例の打ち上げ花火が上がる予定だったのですが、SLと絡める自信がなく。本日最後の撮影地はいつもの津川駅で。

ホーム上のオコジロウと雪だるまのWお出迎え。
「オコジロウ」は、SLばんえつ物語号のマスコットキャラクター。「『SLばんえつ物語』が運転を開始した1999年4月29日生まれのオコジョの男の子」で、御年26歳です。結構ええ歳やな。

石炭補給の作業補助のため、SL到着時にはホーム先端の電灯が点きます。


夜汽車の佇まい。このまま闇を、新潟を、日本をそして地球まで飛び越えて、銀河の果てまで導いてくれそうな雰囲気です。
ひとは誰でも、しあわせ捜す、旅人のようなもの…。自分もいつか、青い小鳥に出会えるのでしょうか。ひとまずは、こういう趣味を続けられるぐらいには、仕事を頑張らないとなァ…。
こうして、越後と会津を股にかけた二日間のSL撮影行は幕を閉じたのでした。記事には載せませんでしたが、煙が出て欲しい場面でスカったり、露出設定が微妙だったり、SLビギナーらしく振り回されることも多々。それでも、いや、だからこそ、蒸気機関車という被写体の愉しさも実感できたように思えます。今回は雪景色でしたが、桜咲く春の集落、隆々と立ち昇る夏の入道雲、色鮮やかな秋の山肌、そういった四季折々の沿線風景にも触れてみたいですね。
貴婦人様、来たる雪解けの日まで、暫しの間お待ちあそばせ。
(おしまい)