新緑眩しい洛北で、叡山電車をスケッチする。

 2025年4月29日、叡山電車の撮影のため、京都・洛北に赴きました。

 お目当ては「リバイバル721」です。外見の変化を伴う車輛のリニューアルを前に、登場当時(1987年)の塗装に戻して約3か月間運行するという、ファンにとっては垂涎もののイベントが開催されていました。分かる人には分かると思いますが、自分としても叡電と言えばやはりこの色!という印象が強いだけに、今回のサプライズ企画はとても嬉しかったです。

 しかし、プライベートの方が忙しかったり、他路線に浮気したりなどしていたりと、なかなか洛北まで足が伸びず、5月6日の運行終了まであと僅かというタイミングに至って、ようやく重い腰を上げたという次第。


 地元の京阪交野線から京阪本線へと乗り継ぎ、約50分。叡電に乗る時に必ずお世話になる「出町柳駅」に到着です。

 待つこと暫し、「リバイバル721」ことデオ720形721号が現れました。アイボリー×マルーンのツートンカラーの落ち着いた配色は、歴史ある京都の町にぴったりだと思います。ずっとこの色でもいいのに…なんてね。

 この日の「リバイバル721」は、ほぼ全日にわたって出町柳⇔八瀬比叡山口を往復する運用に入っていました。45分で1往復するので、少し頑張れば撮れ高は上々でしょう。わくわく。

 10時37分発の「リバイバル721」に乗り、あてもなく降り立ったのは「宝ヶ池駅」。車内から見えたツツジに誘われて。

 この日、八瀬ローカル運用に入っていたデオ720形722号。「リバイバル721」と同じ形式ですが、先述したリニューアル工事を経て、まるで別人のような変貌ぶりです。

 下車してから気付いたのですが、綿菓子のような雲が太陽を隠したり隠さなかったりする、撮影において一番難しい空模様のようです。どないしよ…。

 とはいえ、基本は曇りベースの空模様。「光線がないときは町中でスナップ撮影をするのがよい」という経験則に基づいて、沿線をぶらぶら散歩してみましょう。ぶっちゃけ、光線を気にしなくていい曇りの方が楽しいシチュエーションって、結構多いんですよね。

 宝ヶ池駅に戻ってきました。ちなみに、今や鞍馬方面の輸送がメインになっている叡山電車ですが、実は叡山「本線」を名乗る八瀬・比叡山方面の方が歴史が長いのです。そもそも、会社名の「叡山」からして比叡山への観光輸送を前に出しているようなものですからね。

 そんなわけで、宝ヶ池駅の分岐では八瀬比叡山口方面が直進側を、鞍馬方面が分岐側を進みます。何気ない一枚ですが、叡電の歴史が詰まった一枚でもあります。

 街中探索にも満足したことですし、「リバイバル721」に乗って新緑眩しい八瀬方面へ足を伸ばしてみましょう。

 三宅八幡駅で下車。八瀬比叡山口駅まで、ロケハンも兼ねて沿線を歩いてみることにしました。

 比叡山方面に向かってテクテク歩いていくと、手前が畑になっている場所を発見しました。観光輸送のイメージに反して、住宅地の間を縫うように走る区間が多い叡電ですから、横がちに撮影できる場所は意外と限られているのです。前面から側面にかけての帯のくびれがポイント。

 沿線には藤の花が。

 ずいぶん遠くまでやってきました。萌える新緑、満開のつつじ、単行ローカル。なんと素晴らしい初夏の風景なのでしょうか。

 道中、木々に囲まれた小さい踏切が。ここで撮らなきゃいかんでしょう!一発目の構図に満足できず、もう一往復余計に待ちましたが、それだけ時間をかけた甲斐もあったというもの。

 宝ヶ池まで戻り、行きしなに目をつけていた陸橋の上に張り込みます。15時にもなると住宅の影落ちが気になるところでしたが、なんとか躱しセーフ。単行列車の可愛らしさが伝わるでしょうか。

 続行してきた「ひえい」号も。山の新緑と車輛の深緑のマッチングが心地よい。

 さて、叡山本線は宝ヶ池から三宅八幡にかけて、「上高野氷室山」という山と丘の中間くらいの小山に沿って、東側に針路をとります。ゆえに、この区間は木々の緑と車両を絡めて撮影できるスポットとして、有名のようです。住宅の影落ちで不戦敗を喫する前に、現場へ急行せねば。

 影が落ちてスイートスポットが限られているというのに、なんと「ひえい」と並ぶという。思わぬ形で運を消費しました。ちなみに、「ひえい」号(デオ732号)も元は「リバイバル721」と同系列の車両でしたが、比叡山・琵琶湖観光に力を入れたい京阪HDが旗手となり、既存車の改造による観光列車導入が決定、その白羽の矢が立ったデオ732は大改造ビフォーアフターもかくやの大整形手術の末、こんな奇天烈な風貌になったと。

 午前からずっと宝ヶ池~三宅八幡界隈に居座っていたのでマンネリ感が漂ってきました。ここらで思い切って南下してみることにします。電車に揺られて10分。「茶山・京都芸術大学」という嚙みそうな名前の駅で下車。周辺はいたって普通の住宅地です。

 風鈴がそよぐ涼やかなベンチ。影が長くなってきました。ブルーモーメントの情景を求めて、未踏破の八瀬比叡山口駅に向かいましょう。

 宝ヶ池で乗り換え、19時前に八瀬比叡山口駅着。

 八瀬比叡山口駅は、会社の誕生と同じ1925年の開業。現在に至るまで、二度改名されています(八瀬⇒八瀬遊園⇒八瀬比叡山口)。

 特筆すべきは、積み重ねた歴史を感じさせるレトロな駅構造でしょう。開業時から変らぬ駅上屋や駅舎は、一世紀の時を経ても、なお風格十分。大屋根とホーム上屋を繋ぐ明かり採りの窓を始め、至る所が瀟洒な造りになっています。

 刮目せよ、この威容を。

 旧々駅名が記されたシンプルな看板が、これまた味わい深い。

 ミラーに閉じ込められた光景は、現実か幻か。

 五月初旬の夜の京都はまだまだ寒いようで、上着も無く半袖一枚の恰好では体が堪えます。次の列車で帰宅の途につきましょう。

 泣いても笑ってもこれで最後。二条のレールを妖しく光らせながら、夜の洛北へと消えていった。


 「リバイバル721」を十分に撮影できたかと言うと、やはり滑り込みで一度訪れただけでは撮影しきれなかったシーンも、沢山ありましたよね。期間中に一日だけ降ったらしい雪とのカット、文教都市・京都を彩る桜とのカット、その他もろもろ…。

 それでも、昔懐かしい「えいでん」を収められたことは、望外の喜びであした。今回の企画を考案、実行してくださった関係者の皆様には、本当に謝意の念しかありません。あわよくば、落ち着いたころにまたこうして素敵なリバイバル企画があれば嬉しいですね。(おしまい)

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